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東京地方裁判所 昭和41年(ワ)7112号 判決 1970年5月20日

原告

日本労働組合総評議会

全国金属労働組合東京地方本部

森尾電機支部

代理人

萩原健二

外二名

被告

森尾電機株式会社

代理人

高瀬太郎

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  申立

一、原告

1  被告は、その従業員である訴外石井長年、同金子男、同神戸政宏、同清水貞男、同鈴木重明、同鈴木秀夫、同野村与七、同橋本淳一、同萩野谷清司、同矢口明穂、同安田信裕、同樫村正行に対して、それぞれ雇傭契約解除の意思表示をせよ。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二、被告

主文同旨。

第二  主張

一、原告

(一)  請求の原因

1 昭和三七年一〇月三一日、原告組合と被告会社との間に「非組合員の範囲に関する協定」(以下本件協定という)なる労働協約が締結されたが、その第二項には「組合を除名された者、又は組合を脱退した者については、会社は、これを解雇しなければならない。但し、会社が解雇を不適当と認めた場合は三〇日以内に組合と協議の上決定する。」、第三項には「この協定の有効期間は昭和三七年一一月一日より昭和四〇年一〇月三一日までの三年間とする。但し、有効期間満了前に新に労働協約を締結し、この協定事項が労働協約に移された場合はその労働協約に定める有効期間を適用する。」、第四項には「この協定書の有効期間満了の日までに労働協約が締結されない場合で会社組合の双方がこの協定事項に異議のないときは有効期間満了前にこの協定書を更新するものとする。」と、それぞれ定められている。

<中略>

4 被告会社の従業員である訴外石井長年、同金子勇、同神戸政宏、同清水貞男、同鈴木重明、同鈴木秀夫、同野村与七、同橋本淳一、同萩野谷清司、同矢口明穂、同安田信裕、同樫村正行の一二名は、いずれももと原告組合の組合員であつたが、原告組合は昭和四一年五月一一日鈴木重明を、同年六月二二日その余の者を除名処分に付した。

右鈴木重明ら(以下被除名者らという)は、原告組合が同年三月二八日闘争宣言を発して開始した春闘の最中である同年四月二八日、金子勇を除くその余の者が、次いで同月三〇日右金子がそれぞれ原告組合に対し脱退届を提出するとともに、他の原告組合に対し脱退工作を行なつたため、統制違反として右除名処分に付されたものである。<後略>

理由

一原告主張の請求原因第1項の事実および第4項の事実中、被除名者らが他の原告組合員に対し脱退工作を行なつたとの点を除くその余の事実は当事者間に争いがなく、右事実によれば被除名者らはいずれも昭和四一年六月二二日までに、本件協定第二項本文に定める「組合を除名された者は組合を脱退した者」に該当するに至つたものといわなければならない。

二そこで、本件認定が現に効力を有しているかどうかについて検討する。本件協定の更新を規定する第四項の趣旨につき、原告は自動更新を定めたものである旨主張するのに対し、被告は、原告組合と被告会社間において更新を確認する旨の書面による合意を要するとの約定が付されていた旨主張するので、この点につき按ずるに、本件協定第三項の趣旨と<証拠>とを併せ考えると、本件協定の有効期間である昭和四〇年一〇月三一日までに原被告間にユニオン・ショップ条項を含めた新たな労働協約の締結がなされない場合の措置として、かかる場合には、原告組合、被告会社の双方から本件協定の更新について異議が述べられない限り、本件協定は自動的に更新されるという趣旨の下に約定されたものと認めるに足り、<証拠判断省略>。

そして、昭和四〇年一〇月三一日までに本件協定第三項但書に基づく労働協約の締結がなされなかつたこと、および原告組合、被告会社双方から本件協定の更新について異議が述べられなかつたことはいずれも被告において明らかに争わないところであるから、本件協定は昭和四〇年一〇月三一日の経過とともに自動的に更新されたといわなければならない。

三ところで、別段の定めのない限り、右更新された本件協定の有効期間は更新前と同一の三年と解すべきであり、別段の定めのあることの主張立証はないから、その有効期間は昭和四三年一〇月三一日をもつて満了するといわなければならない。

ところで、<証拠>を併せ考えれば、被除名者鈴木重明の解雇をめぐり、昭和四一年五月一六日から四回にわたり、原告組合と被告会社との間で話合いが行なわれたが、その席上、被告会社は、本件協定は昭和四〇年一〇月三一日限りで失効したとの見解を表明し、それを固執して譲らなかつたため、原告組合は本件訴訟提起に及んだものであることが認められ、さらに被告が本件訴訟において終始右見解と同一の主張をなしてきたことは本件訴訟の経過に照して明らかである。右被告のとつた態度は、本件協定の更新について本件協定第四項にいう「異議」を述べたことに当ると解するを相当とする。したがつて、本件協定は再度更新されることなく、前示第一回目の更新による有効期間満了により失効したといわざるをえない(本件協定が昭和四三年一〇月三一日の経過に伴い、期間満了により失効した旨の被告の主張は、本件訴訟の経過に鑑み訴訟の完結を遅延せしめるものとは認められないから、これを時機におくれたものとして却下することを求める原告の申立は却下することとする)。

しかして、本件協定のようなユニオン・ショップ協定は、労働組合の組織の維持拡大および統制力の強化を目的として、被除名者もしくは脱退者の解雇を使用者に義務づけることを内容とするものであるから、使用者のユニオン・ショップ協定に基づく被除名者もしくは脱退者の解雇義務は、同協定の失効と共に消滅し、たとえユニオン・ショップ協定の有効期間内に除名または脱退により組合員たる身分を失つた労働者についても、同協定が失効した後は、労働組合はもはや使用者に対し、当該労働者の解雇を請求することはできないものと解するを相当とする。けだし、ユニオン・ショップ協定が失効するときは、組合の組織と統制の維持は、もつぱら組合自身の力によつてするほかはなく、その後の被除名者または脱退者は除名または脱退を理由として使用者から解雇される危険はない事態、に立ち至るのであるが、かかる事態に立ち至つた時点において、かつて同協定の有効期間内に除名または脱退により組合員たる身分を失つた労働者の解雇を使用者に義務づけても、組合の組織と統制の維持には役立たないことであるし、そのような効果のない解雇を使用者に強制し得るとなすことは、当該労働者を失業させることにより組合の報復的感情を満足させるにすぎず、ユニオン・ショップ協定の目的を逸脱するものであるからである。

四叙上よりして、本件協定の失効により被除名者を解雇する義務は存在していない旨の被告の主張は理由があるといわなければならないから、原告の本訴請求はその余の点について判断するまでもなく失当として棄却を免がれない。

よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。(兼築義春 豊島利夫 菅原晴郎)

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